一人でも仕事帰りにフラっと泡が欲しくなる【中央名掛丁センター街】~WINE STAND タンバリン~

イタリアン / フレンチ / スペイン

仕事が終わった。

いつもより早い時間帯。これを幸いにと可愛い我が子が待つ家路へと急ぎたいところだが何故か今日は足が重い。ぐずぐずと帰り支度をしながら無機質なビルを背にする。気持ちが歩みに出たのか、幾人かが颯爽とした足取りで私を追い越して行った。

見送る後ろ姿に自然とため息が漏れる。

7月も後半だと言うのに仙台の梅雨は明けずにいる。先ほどまでミストのようにまとわりついていた雨は落ち着いたが空は曇天のまま。それでもまだ帰るには早い時間帯という事を教えてくれていた。このまま真っ直ぐ帰るか否か、自分に問うてみて初めて気が付く。

あぁ私はまだ今日を終わらせたくは無いのだ。

それならばと路地裏に足を踏み入れる。いつものように雑踏の中、もつ焼きで日本酒を一杯でもいいけれど、今日はちょっと違う気分。もっと人気の無い静かなところでゆっくりまったりと。



店名:WINE STAND タンバリン
住所:仙台市青葉区中央1丁目8-31
電話番号:022-226-8268
営業時間:17:00~25:00
参考:webサイト

1人と言うとカウンターが空いたばかりと案内された。たった今空いたばかりのその場所はまるで私を待っていたかのように感じられる。そんなわけないのに、なんだか嬉しい。

「泡を」

常連のようにそこへ座り、常連のように言葉を口にする。
先客は3名。広さ的にはなかなかの入りだが、皆自分の時間を満喫しているよう。小さな空間はその雰囲気を共有し、大事に扱っているようですぐに独り者の私も馴染んでしまった。

お店には飲み物のメニューが無い。泡か白か赤。店主に好みを言えば適当にチョイスしてくれるであろう気楽さは好きだ。目が滑るような横文字を並べた用紙は今はお呼びではない。

乾杯する相手もいないのだけれど、空に向かってすっとグラスをあげてしまう。

「食事の前にはいただきますを」
そう育てられたから、何もせずに口をつけることに抵抗があるのだろう。だからと言って口に出してしまってはこの雰囲気を壊してしまいそうだった。

食前酒に悩んだら泡。
誰かの言葉は未だに頭の片隅に残っている。そうは言ってもコース料理が出てくるお店ではないのだから、ワインに合わせて料理を選べばいい。解っているのに咄嗟に泡と口にしてしまう自分の単純さよ。

しかしこの泡は美味しい。
雨上がりの湿度をまとったところへ一条の清涼な風が吹いたようだ。
一杯で帰ろうと思っていたのに炭酸の効能も合わさって、つい手にメニューを取ってしまう。


アペリティフ盛り合わせ500円

チーズとオリーブオイルをまとった真っ赤なトマト。フレッシュな酸味に軽いのにコクのあるチーズ。ピリリとしたペッパーがアクセントになっている。トマトの酸味が白ワインと良く合い、チーズの風味をさらに引き立ててくれた。

ワインとベストな食べ合わせの事を「マリアージュ」という言う。マリアージュはフランス語で結婚を意味するそうだ。

ワインを男性に例えるならば、食材は女性。この1皿だけで4人の女性と結婚をする罪な色男だ。
でもそんな色男の時代は長くは続かない。

「白を」

そして女はまた別の男と結婚をする。

   結婚。

若い時はこの人しかいない、そう思ってただ一途に想い愛した。しかし今になって見れば、それは間違いではないけれど正しくも無かったように思う。

それは今だからこそ気付くこと。あの時の私は、白ワインにハムやサラミを合わせるような事はしない女だった。今はこの美味しさに束の間酔いしれる。

滑らかな酸味の白と程よく淡白なハムで昔の余韻に浸っていたら、にわかに外が騒がしくなってきた。どうやら私が持っていたアドバンテージは終了してしまったようだ。これからの時間は私のものではない。ほどよくご機嫌になった自分に笑いながら暇を告げた。

たまにはこんな日も良い。ほろ酔い加減で過去を思い出し、今に想いを馳せる。可愛い我が子の待つ家に、今日も私は帰るのだ。


店名:WINE STAND タンバリン
住所:仙台市青葉区中央1丁目8-31
電話番号:022-226-8268
営業時間:17:00~25:00
参考:webサイト

保存料等を使わずぶとうのみで作ったワインを立ち飲みスタイルで楽しめるお店。
フードはフランス料理を専門にしていたマスターが作る一風変わったものが多い。
がっつり食べたい時は系列店からの出前も可能。
駅前という立地を生かし、さらっと一杯気軽に立ち寄りたい。