レトロな雰囲気の名酒場【北目町】~酒場王冠~

グルメ


「お店の人とお客さんで良い酒場というものは作られるものです」(吉田類の思い出酒場より)

酒場に行く時、私は良い人であろうと努力する。
それはお互いに気持ちよく過ごしたいからであり、決して卑屈になっていたり低姿勢になったりしているわけではない。
ひとりのみを常とする私の好きな酒場は得てしてこじんまりとしている。それくらいの空間がきっと私にとって心地良いのであろう。
そんな心地良い空間を提供してくれる酒場の店主は1人で営業していることが多い。席が空いていても対応できないと入店を断られることもある。

だから本当はお気に入りのお店は教えたくない

しかしこのご時世。
ひっそりとその雰囲気を楽しんでいた老舗の喫茶店は閉店を決めてしまった。
混雑はして欲しくはない、しかしその空間はずっとそこにあって欲しい。なんとも我儘な話であるが人とはそういうものなのだろう。



店名:酒場王冠
住所:仙台市青葉区北目町1
電話番号:022-266-6221
営業時間:平日17:30~22:30 日曜17:00~21:30
定休日:不定休
参考:食べログ

街中から少し外れたところにあるからと、ずっと人には教えなかった某酒場詩人も通う「酒場王冠」は2012年のオープンだが外見も内装もレトロで溢れていた。
使い込まれたコの字のカウンター。そこに座って誰かの風景の一部になっている時間がたまらなく好きだ。

先客は1組。店主は1人忙しそうに立ち回っていた。良い客に努める私はタイミングを計って注文をする。


一杯目は紀土 -KID- 純米吟醸 夏ノ疾風
夏季限定酒。
紀土らしい優しい口当たりと夏の風が吹き抜けるかのような、かろやかな酸味がある。

私の夜は日本酒から始まり日本酒で終わる。とりあえず日本酒なのである。
暖かな電球の光をも水面に湛えて艶めかしく映るその姿はそれだけで気持ちが安らぐ。

渇いた唇をつければそれは喉を通って体中に染み渡った。


箸置きが可愛い

残る夏の暑さに火照った体を癒していると突き出しが置かれる。

突き出しが美味い店に外れ無し

3人組が来店。
忙しく立ち回る店主をぼーっと見ていたら刺身の注文が入ったようだ。

ここは同じタイミングで頼んでおこう


二杯目、山形正宗 夏ノ純米
花火のラベルが愛らしい夏酒。すっきりと爽やかな喉越しでフルーティ。


山形の次は岩手あづまみね 純米無濾過生 初夏
優しい甘さがありながら先の日本酒よりも酸味が鋭い。

季節的に今日が最後になるであろうから、夏酒をメインに据えることにする。

この「夏酒」という言葉が使われはじめたのは2007年頃。その頃は日本酒は寒い時期に飲むものであり夏はビールのイメージが強かったそうだ。そこでプロモーションの一環として「夏でも美味しく日本酒を飲んでもらう」事を目的に作られたのが「夏酒」

そんな事だから「夏酒」としての厳密な定義は無く、各酒蔵が夏に飲みたくなる日本酒を試行錯誤して商品化しているのだ。


そして宮城阿部勘 純米吟醸 夏酒
こちらもしっかりとした酸味。ラベルの裏側に遊び心があるので見かけた際にはぜひ裏側を確認してほしい。

日本酒が口内を通る度にゆったりと心が落ち着いていく。まったりと流れる時間が心地よくて世界が満たされていくようだ。店主が料理を作る音や男女の弾む声、隣の男性の衣擦れの音、日常に溢れる音が酒場に彩を加えている。

今日も酒を味わえる事に感謝していたら、店主が説明と共に刺身の盛り合わせを置いていった。

ボリューム満点!


タコだけ指定で他はお任せ。

なんとは無しにテーブルを見ていたら、1人1皿での提供らしい。3人組のテーブルに3皿運ばれて歓声が上がった。私も心の中で歓声を上げ、猪口の代わりに箸を持つ。

厚めに設えられた魚の蕩ける油の旨い事。ねっとりと濃厚な旨味が舌に纏わり、それを日本酒で昇華させる。ぷりぷり食感のたこはどうして、噛めば噛むほどに味が溢れ酒が進む。


十九 shoebill
ハシビロコウ!鋭い目つきのハシビロコウがラベルだが甘め。掛川花鳥園で飼育されているふたばのように可愛らしいお酒だ。


ナツノコトブキ 純米吟醸無濾過生酒
こちらは打って変わってのセクシィラベル。

そろそろ終盤、1人客故ダラダラと長居はせずに立ち去るのが私の流儀。途中追加した肴を堪能し酒を呷る。

タイミングを見て注文したり、丁度心地よいタイミングで席を立つ私を面倒と思う人も多いだろう。店主と仲良くなって閉店まで居座ったり、注文が立て込む時間になってから好きな物を頼む、それは全然間違いでない。

酒など楽しく飲めればそれで良いのだ

そして私にとっての酒の楽しい飲み方がこうであるだけだ。良い酒場で良い客となり美味しい酒を飲む。それだけの事。他人の飲み方に口出しは無用

但し、店主1人と知りながら無茶なオーダーをしたり遅いと文句を言うような客は良くない、端から選ぶ店を間違えていると私は思う。


卵焼き。
ふわっふわの中からすでに溢れるほどの出汁は言うまでもなく美味しい。さっぱりとしたおろしと共にいただくとまた別の感動が味わえる。


漬物。

らっきょうが入っているのは珍しい。塩分控えめで程よく浸かった野菜は良き歯ごたえを残している。

今回はお世話にならなかったが、ここの燗付け器や徳利には店名の王冠マークが入っていてそれがなんとも愛らしい。
店名の王冠は昔、荒町にあった王冠サイダーからきているそうで、なんでも女将さんのご実家だったとかなんとか。当時の瓶やラベル等は残っていないらしく、随分前に現存の品の呼びかけをしていたように記憶している。

今年最後になるであろう夏酒を堪能し尽くした、私の夏は今日でお仕舞い。明日からはひやおろし、秋上がりが私を待っている。

秋のひやおりしに冬のしぼりたて、そして春には霞酒

酒飲みの1年は忙しい。
また明日も何処かの酒場で私は杯を傾けよう。

今夜もごちそうさまでした



店名:酒場王冠
住所:仙台市青葉区北目町1
電話番号:022-266-6221
営業時間:平日17:30~22:30 日曜17:00~21:30
定休日:不定休
参考:食べログ